市場の歴史

起源

グリァスンは沈黙交易の研究を通して、市場の成立について以下のような類型を示唆した。

  1. 姿を見せぬ交易(インヴィジブル・トレード)
  2. 姿を見せる交易(ヴィジブル・トレード)
  3. 客人の招請(ゲスト・フレンドシップ)
  4. 姿を見せる仲介者づきの交易(ミドルマン・トレード)
  5. 集積所(デポ)
  6. 中立的な交易
  7. 武装市場(アームド・マーケット)
  8. 定市場(レギュラー・マーケット)

グリァスンは、人間集団が平和に交流できる中立的な場所として市場を定義した。また、市場の存在によって特定の場所に平和が保存され、それが市場への路や人物にも広がることで、さらに平和の範囲が進展すると述べた。

カール・ポランニーは、市場制度が発達する起源として、対外市場と地域市場(対内市場)の二つをあげる。対外市場は交易など共同体の外部からの財の獲得に関係し、地域市場は共同体での食糧の分配に関係する。地域市場は、さらに二つの形態に分かれる。第1は物資を中央に集めて分配する形態で、灌漑型の国家に顕著に見られる。第2は地域の食料を販売する形態で、古代ギリシアの小農経済や叢林型経済に顕著なものとなる。

古代メソポタミア・西アジア

シュメールやバビロニアでは食物をはじめとする必需品を貯蔵し、宮殿や都市の門において分配した。またバザールでは手工業品の販売を行なった。やがて灌漑型国家の分配制度が衰え、イスラーム世界の商業が浸透すると、バザールは地域の食糧市場も兼ねるようになった。地域市場とは別に対外用の交易が行なわれていたが、バビロニアにおいては対外市場はまだ存在しなかった。のちのキュロス2世は、ギリシア人の市場制度を理解せず、非難した。

古代ギリシア・ヘレニズム

古代ギリシアのポリスにおいては、アゴラが市場としても用いられた。地域市場と対外市場が分かれており、地域市場にはアゴラ、対外市場にはエンポリウムが存在した。アゴラではカペーロスという小売人がおり、エンポリウムではエンポロスという者が対外交易を行なった。また、遠征した兵士のための市場があり、軍隊への補給と戦利品の処分を行なっていた。価格が変動する初の国際市場として、アレクサンドロス3世の家臣であるナウクラティスのクレオメネスが運営した穀物市場が存在したが、この制度は古代ローマには受け継がれなかった。

日本

日本では7世紀には、飛鳥の海石榴市(つばいち)や軽市、河内の餌香市(えがのいち)や阿斗桑市(あとのくわのいち)などに一種の統制市場があったことが『日本書紀』の記述からわかる。また、『風土記』からは、常陸国高浜や出雲国促戸渡のような漁民や農民が往来する場所や交通の要所で貨幣発行以前から市が成立していたことがわかる。

古代国家においては、中国の制度を参考にしつつ、大宝律令の関市令によって市制を整備した。都の東西に市が設置されて市司という監督官庁が置かれ、藤原京・平城京・難波京・長岡京・平安京などに官営の東西市が運営されていた。この統制市場は正午に開き、日没に閉じ、品物の価格は市司が決定した。また商業施設としての機能だけではなく、功のある者を表彰したり、罪を犯した者を公開で罰する場所としても使用された。

当初は官庁の指定した特定区域以外での商業は禁じられていたが、律令制の弛緩とともに交通の要所など人が集まる場所には月の決まった日に市が立つ定期市が形成されるようになった。近畿地方を中心として荘園では地方市場が生まれ、行商人が活動した。市の立つ日(市日)としては「八の日」が多く、「三斎市」(さんさいいち)が多い。市日が「八の日」であれば、8・18・28日に市が立つ。市を開く時間(開市)は、「朝市」、「夕市」は朝から夕方までである。夜店は夜見世・夜市・夕市などと書かれた。15-6世紀には、月6回の「六斎市」が生まれる。

官製の東西市は律令国家とともに衰退し、都市には定住の市人の中から卸売商を行なう者が現われ、問屋集合による卸売市場が生まれる。これは座を形成したが、16世紀以降の楽市・楽座によって座は解体され、城下町の中央市場と、各地の住民のための在郷市場町における小売市場に分かれてゆく。中央市場に問屋が集まる一方、小売市場では、振売り、野市、出売り、立売りなどが見られた。近世においては問屋商人による卸売市場が栄え、特に領主に後押しされた御用市場において排他的独占が生じた。これにより在方や町方の市場は禁圧を受ける一方、御用市場のための納付(納魚、納菜)は仲買や一般の買手である住民の負担となった。

古い市としては、五城目(秋田県南秋田郡)、横手(秋田県横手市)、温海(あつみ、山形県西田川郡)、陸前高田(岩手県陸前高田市)、大多喜(千葉県いすみ市)、勝浦(千葉県勝浦市)、高山(岐阜県高山市)、輪島(石川県輪島市)、珠洲(すず、石川県珠洲市)越前大野(福井県大野市)などが江戸時代まで遡る。また、三重県四日市市や旧・滋賀県八日市市(現東近江市)、広島県廿日市市、旧・千葉県八日市場市(現匝瑳市)などの名称に昔の名残がみえる。

Posted on May 4, 2010 by Someone  |  comments (0)